第86章 信長様の誘い
蘭丸「俺は信長様の命に従いたい。でも舞様がここに残るなら俺も残るよ。
仕事を持っている舞様が家のことを回すのは大変だからね」
「ありがとう、蘭丸君」
どうしよう…。直ぐには答えが出そうにない。
謙信「佐助、返事の期日はいつまでだ」
(期日?)
信長様がここにいるわけでもないのに、返事の期日なんてあるのかな。
佐助「2週間後です」
「2週間後!?なんでそんなに急なの?」
信玄「船だ…そうだろ、佐助」
佐助「ええ、俺が乗ってきた船が積み荷を積んで2週間後に出航予定です。
ここにいる全員を乗船させてもらえるよう、船長と話がついています。この船を逃せば、乗せてくれる船が見つかるまで出立できません」
部屋に沈黙が訪れた。
外国船が入港するのは年に一回。
それに乗せてくれるよう頼んでも、駄目ならまた1年先延ばしになる。そんなの…いつになるかわからない。
行くなら2週間後の船しかない。
佐助「舞さん、信長様が助けた商人は『珍しいある物』に目をつけてたくさん買い付けたんだ。だけど仕入れたまでは良かったけど、ちょっと抜けた人でね、どんなふうに売るかまで考えていなかった。
大量の在庫を抱え込んでしまい、不安定だった経営は大きく傾いたんだ」
「そうなの…それで?」
佐助君は眼鏡に手をやった時、目を光らせた。
佐助「商人が買い付けたのは日本、中国の他、東南アジアで織られた生地だ」
「え?生地?」
佐助「そうだ。ヨーロッパでは珍しいアジアの生地を仕入れて儲けようとしたけど、いざ仕入れてみたら扱える人間が居ないことに気が付いたんだ」
信玄「その商人、詰めが甘すぎてどうしようもないな」
信玄様が呆れている。
佐助君は真面目な顔で頷き話を続けた。
佐助「生地のまま売ろうにも全く売れず、せっかく良い品なのに商人の屋敷で眠っているんだ。
そこで信長様は君に声をかけたんだ」
「私?」
佐助「君なら500年後で様々な国の生地を見て、触れているだろうし、裁縫の技術・知識も和洋揃っている。
眠っている生地を使って、ヨーロッパの人達に受け入れられるようなモノを作って欲しいそうだ」
「そう簡単に言うけど……」