第86章 信長様の誘い
佐助「三枚のハンカチと三組のグローブで、信長様達が一生遊んで暮らせる金額だった」
謙信「舞が信長に渡した餞別が意外なところで役に立ったということか」
佐助君は無表情で頷いた。
佐助「ええ。舞さんの手ぬぐいと手袋があんなに高値をつけるなんて俺も驚きました。
信長様は君の見立ては間違いなかったと、とても褒めていたよ」
信長様は何を思ったのかそのお金で商人の借金を返済し、商人はいたく感謝して、使っていなかった別荘を信長様に譲ってくれたらしい。
借金の肩代わりをしてもまだ余りあるお金を元手に、信長様と光秀さんはしばらくそこに住むと決め、佐助君はそれを見届けてから日本へ戻って来たそうだ。
「そっか……良かった」
佐助君の話を聞いてほっとした。
信長様は安土で私に衣食住の場を与えてくれた。それがどんなにありがたいことだったか…。
見知らぬ土地でなんのつてもない信長様達が、衣食住の心配なく暮らせるようになったのなら、何よりだ。
佐助「それで信長様からの提案だ」
佐助君が改めて居住まいを正して、この場に居る全員をぐるりと見回した。
謙信「…早く言え。聞かなくともわかるが…」
「?」
小さく息を吐いた謙信様は信長様の提案をわかっているようだった。
佐助「『貴様らも海を渡ってこい』だそうです」
謙信「……」
「海を渡ってなんて……」
無理だよ……、と言いそうになってやめた。
この場に居る他の皆がどう思っているか聞きたくて。
信玄「さぁてな、どう思う。謙信」
信玄様の表情からは考えが読み取れず、謙信様は難しそうな顔をしている。
即答しないところを見ると考えるところがあるのかもしれない。