第86章 信長様の誘い
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佐助君は一人だった。
信長様達はロシア船から降りた後、たまたま同じ港に寄港していたオランダの船に乗ることができて、陸路ではなく海路でヨーロッパに向かったそうだ。
その後ヨーロッパ各地を渡り歩き、やっと居場所を決めたところで佐助君は帰って来たらしい。
どうやって察したのかわからないけれど、家の戸を開けた瞬間に謙信様が佐助君に斬りかかってきた。
歓迎?の斬り合いと炸裂した煙玉の音で、信玄様や龍輝達が集まってきた。
再会を喜び合った後、一同佐助君の話を聞くために腰を下ろした。
佐助「信長様達はとある商人の別荘に暮らしています」
(え?)
信玄「どういう経緯でそうなったんだ?」
佐助「それが大借金を抱えた商人を、たまたま信長様が……」
信長様達が旅をしている途中、馬車が立ち往生している場に居合わせて手を貸してあげたところ、大変感謝されて屋敷に招待されたらしい。
けれど広い屋敷は全然手入れが行き届いておらず、信長様が着ていた黒い洋服が埃で真っ白になる始末。
事情を聴いてみれば、その商人はお父様が築き上げた財を相続したものの、才能がないのか手を出すものはことごとく売れず、赤字ばかり。
ついには使用人を雇うお金もなくなり、屋敷は荒れ放題になってしまったという。
佐助「こう言って良いのかわからないけど、インテリアの趣向も支離滅裂な感じでごちゃごちゃしてて、とにかくセンスがない。
その商人の内面を現しているみたいだった」
佐助君の説明からも、その商人があまりやり手ではないのが伝わってきた。
信長様は応接間に飾られた日本製の壺に目を止めて褒めると、商人は『わが国だけでなく周辺国でも日本のものは人気がある』という話をしてくれたそうだ。
そこで信長様が私が作ったハンカチとグローブを見せると商人の目の色が変わったという。
布だけでも珍しいのに、西洋の女性が使えるように仕立てられているのは珍しい、と。
懇意にしていた貴族の奥様にそれを見てもらったところ、王族御用達の仕立て屋を紹介してくれて、なんとそのハンカチやグローブはその国の王妃とその娘たちに気に入られ、高く買い上げられたのだそう……。