第6章 看病四日目 二人の香
(これを着て謙信様は寝てるんだ……)
体格の違いをまざまざと感じ、また動かずとも香る謙信様の香の香り。
まるで抱きしめられているような感覚…
「~~~~~」
赤くなった顔を両手で覆う。
(落ち着け、落ち着け……)
好きな人の着物の香りを嗅いでドキドキするなんて一歩間違えば変態みたいだ。
謙信様は私の事なんてなんとも思っていないのに。
30秒くらいじっとした後に大きく息を吸って、吐いた。
(よし!)
平静を取り戻し汚れた着物を持って寝室を出る。
謙信様は囲炉裏端で書き物をしていて、私が近づくと顔を上げてくれた。
謙信「…………」
不自然なくらい素っ気なく目を逸らされた。
(こんなにぶかぶかなんだもん、変だって思ってるよね、きっと)
笑ってくれた方が気が楽なのに。
ちょっぴりいじけたくなったけど、笑顔を作ってお礼を言った。
「夜着を貸してくださってありがとうございました。
この着物が乾くまでの間、お借りしますね」
謙信「……ああ」
いつも以上に素っ気ない謙信様に背を向けて衣桁に着物を干した。
泥が繊維に入り込まないよう、乾いた手拭いで優しく水分だけ取り除く。
今落としても帰り道でまた汚れてしまうだろうけど……
濡らした手ぬぐいでポンポンと叩くようにすると汚れが少し薄くなった。
(着物の扱いはまだ不慣れだからな…シミにならなきゃいいけど)
着物を汚してしまったこと、秀吉さんに謝らなきゃ。
がっかりした気分で立ち上がった。
謙信「終わったか……縫い物でもしながらここで温まれ」
筆を持つ手を止めて謙信様は囲炉裏の傍に誘ってくれた。
ここに来てから『温まれ』と何度言われたか。
言う通りに囲炉裏で温まりながら繕い物を始めた。
雑巾を新調し、佐助君の忍び装束の穴を塞いでいるとクシャミが出た。
「はっ……くしゅん!」