第85章 依頼主からの文
「っ!!」
行商人「どうかされましたか?」
文にこめられた秘密に胸打たれていると、行商人が声をかけてきた。
これ以上の動揺は見せられないと、政宗からの文を畳み、胸にしまった。
「いいえ。文を届けて下さってありがとうございました。
この依頼、確かに承りました。なるべく早く仕上げたいとは思いますが全部仕上がるまでは……半年程頂きたいです。
いつもより丁寧に仕上げたいと思いますので」
思うことがあって余裕をもたせた納期を口にする。
行商の人は快く了承してくれて、その頃にまた来ると言ってくれた。
帰ろうと腰をあげると、政宗から預かったと言う荷物を渡された。
渡されたと言うと簡単だけど、それは荷車一つ分にもなり、市場で買い物をしていた蘭丸君に急遽来てもらった。
荷車に山盛りになっている荷物をみて、蘭丸君はすっかり誤解して『舞様、今日は随分買い物をしたんだね』なんて言うから、事情を話した。
蘭丸「え!?政宗様から?なんで舞様がここに居るってわかったの?」
荷物の半分くらいは一級品の反物や、綿、糸だった。
お米や塩、味噌、醤油もあり、その他に日持ちする乾物類に、魚の干物など様々だった。
荷物に入っていた文には、
『育ち盛りの子がいると大変だろう。受け取れ。
40年前、お前に渡せなかった餞別の代わりだ。ずっとそれが引っ掛かっていた。
依頼の品はこの反物の中から選んでもらってもかまわない。楽しみにしている』
そう書かれていた。
記憶のままの政宗らしくて笑ってしまった。
もうとっくに還暦を迎えておじいちゃんになっているだろうに、文だけ読んでいるとあの頃と全然変わっていない。
「私が縫った着物のロゴでわかったみたい」
蘭丸「ロゴってあの着物の裏に小さくつけている小さな印のことでしょ?
よく気付くよね、政宗さんも」
行商人の人が手配してくれた荷車をそのまま借りて、家路についた。
歩きながら政宗の手紙の内容を蘭丸君に話して聞かせた。