第85章 依頼主からの文
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『息災にしているのか。
未知の病にかかったお前が居なくなってから、早40年が過ぎようとしている。
縫い目を見て直ぐお前が作ったものだとわかった。
お前が作ったという印も昔と変わっているが、名残が残っている。
おかしなもんだよな、7歳の子がいるなんて不老の術でも心得ていたのか?
どういうことか直に問いただしたいが蝦夷に行くとなると老体に厳しい。
最近体のあちこちに不調が出て、あの頃のようには動けない。歳はとりたくないもんだな。
お前の腕を見込んで着物の依頼をしたい。
一枚は俺の夏用の着物だ。
城の針子に寸法をとってもらったから、それを参考に作って欲しい。『でざいん』はお前に任せる。
それと家康の三女が最近4人目の子を産んだ。
お祝いに赤子と兄姉達の着物を縫って欲しい。
家康の三女は帝から入内の話がくるくらい別嬪だが、家康の家臣にベタぼれして一緒になったんだ。
家臣の名は『徳生』と言って、家康を陰から支える切れ者の側用人(そばようにん)だ。
なかなか表には出てこない恥ずかしがり屋だが、家康の大事な左腕だ。
いつもとぼけた顔をしているから家康が嫌そうにしていてな、その顔を見るたびに愉快な気分になる』
「?」
何故か『徳生』という人について詳しく書かれていた。
(政宗のことだから、きっとこれには何か意味があるはず)
この文には何か大事なことが書かれている、そんな予感がして先を急いで読んだ。
『徳生はそう若くないのに家康の娘を大層可愛がっていてな、ずっと『居なくなった誰か』を想い続けて独り身でいたが、やっと添い遂げる相手を見つけたんだ。
あいつは尊敬する家康の傍で、愛する妻と子と共に、幸せにしている。
あとな、家康の傍には徳生の他にもう一人、時継という右腕がいて……』
(時継って、秀吉さんの子供の秀頼じゃないかと言われている人だ)
こくんと唾を飲みこんだ。
『………誰かによく似て『お人好し』だ。
徳生より大分若いのに徳生の世話をよくやいている。因果な関係だな』