第85章 依頼主からの文
(姫目線)
「え、依頼、ですか?」
港町に下りると、馴染みの行商人が半月前から私を探していたと待ち構えていた。
話を聞くと私を指名していくつかの着物の依頼が入ったという。
初めてのことだ。
行商人「はい。この間舞様から買い上げた着物を見たお方が、是非にと」
男性用の夏物の小袖、男の子2人、女の子1人、女の子の赤ちゃん1人。
計5点の依頼で、それぞれの寸法が書いた紙を渡された。
行商人「こちらが依頼人の方から預かった文です」
文を開くと、見覚えのある懐かしい字が目に飛び込んできた。
安土に居た頃、よく文を預かったから覚えている。
「これ……まさか」
思わず行商人の顔を見る。
行商人「まさかあの伊達政宗様とあなたがお知り合いだとは存じませんでした」
「政宗と会ったんですか?」
(どうして?失礼だけどお城に出入りしているような行商の人に見えないけど…)
行商人「茶屋で荷物の整理をしている時に偶然伊達様が居合わせまして、あなたが縫った着物に目をとめたんです。
『ふりる』がついた着物をお気に召したようで、手に取って見ていたのですが舞様の印に気付き血相を変えられまして…」
フリルに目がいくなんてお洒落好きな政宗らしいな、と懐かしく思う反面、私の存在に気付かれたと戸惑う。
政宗に着物を縫った時とはロゴを変えてあるんだけど……なんで気が付いたんだろう?
ゆっくりなら崩し字を読めるようになったので文の文字を追っていく。