第6章 看病四日目 二人の香
謙信「残っていた材料で適当に作って済ませた。昼餉の刻まで温まれ」
目の前にきっちりと畳まれた夜着(よぎ)がポンと置かれた。
謙信様によく似合いそうな淡い水色をしている。
(?)
洗濯をお願いされたのかと思ったけど、どう見ても清潔そうだ。
首を傾げていると謙信様は私を寝室に促した。
謙信「貸してやるから濡れた着物を脱いで乾かせ。風邪をひく」
「お気持ちはありがたいですが…このくらい平気ですから」
(謙信様から着物を借りるなんて滅相もない!!)
速攻で断ると謙信様は首を横に振る。
謙信「女子はか弱い。些細なことで身体を壊さぬうちに言うことを聞け。
お前が倒れれば佐助の看病もままなくなるぞ、いいのか?」
そう言われてしまえば反論できない。
「わかりました。でも謙信様からお借りするのは申し訳ないので、佐助君の忍服を借ります」
寝込んでいる間は忍び装束の出番はないから着替えに丁度良いと思ったのに、謙信様は不機嫌な顔で強引に夜着を押し付けてきた。
グイグイと寝室に誘導され、ぴしゃんと襖を閉められる。
(も、もう、強引な方だな)
仕方なく夜着を借りることにして濡れた着物を脱ぐ。
髪を拭き、脱いだ着物を改めて確認すると思っていた以上に泥跳ねがあった。
安土に来た当初『着替えがないと困るだろう』と秀吉さんが贈ってくれたものだったのに。
「気をつけて歩いてきたんだけどな。泥だけでもとっておこう」
襦袢一枚の身体がぶるっと震え、急いで夜着を広げた。
当たり前だけどサイズが大きい。
裾をあげて調整し、帯を結んだ。肩幅が合っていないので肩が落ち、全体的に布が余ってぶかぶかだ。
多めに巻いても余る男性用の帯。
「………っ、おおきい…」
好きな人の服を着る。
その行為に胸がときめかないわけがない。