第85章 依頼主からの文
(第三者目線)
??「へえ、その着物、よくできてるじゃねぇか」
ふと思いつき、陸奥国をあちこち旅していた男は、立ち寄った茶屋で行商の男が荷物の整理をしているのを目にした。
何気なく手元を見ると、着物の袖に初めて見る装飾(フリル)が施されていて、思わず呟いた。
行商人「蝦夷の地に腕のいい針子が居るんです。
大阪や京、江戸でも人気で、持って行くと飛ぶように売れるんです。
お武家様とお見受け致しますが、一枚いかがですか?」
??「そうだな、古い友に子ができたと聞いたから何枚か買わせてもらお……ん?」
女児用の着物を広げて見ていた男の手が止まった。
行商人「ああ、その印は蝦夷の女が『責任をもって作ったものだと印をつけている』と言っていました。
その印がついたものなら無償で手直しすると言っていました」
??「…おい、その女はどんなやつだ?」
それまでの悠々としていた男の雰囲気が変わり、行商の男は肝を冷やした。
行商人「ええと、この間はお一人でしたが、いつもお付きの方が一緒に居ます。
お名前を舞様といいます」
??「な、んだとっ!?」
男の剣幕に行商人が飛び上がり、近くで茶を飲んでいた旅人達も怪訝な顔でこちらを見ている。
男は咳ばらいをして態度を改めた。
??「取り乱してすまない。それで他には」
行商人「は、はぁ…お子さんが三人居て、下の子は7歳だとか…。
気さくな性格で、丸いパッチリした目をしていて、いつも見たことがない髪の結い方をしています。
身なりもいつも綺麗にされていて、なんというか…京や大阪に居てもおかしくないような垢ぬけた方です」
??「おかしいな、知り合いに似ているが年齢がちょっと違うようだ。その7歳の子は養子か?」
思い当たる『あの女』なら、男より少し若いくらいだ。7歳の子を持っているはずがないが、と首を傾げた。