第84章 結ぶ
三成「ふふ、可愛らしい方ですね。そのように緊張なさらないでください。
それに様はいりません、どうぞ三成と。
この名はもうすぐ使えなくなりますが、ほんの一時でもあなたに呼んで欲しい」
姫「ですが呼び捨ては流石に…。三成さん?三成君?ええっと…」
呼び名に困っている間も三成がこちらをジッと見ている。
姫は羞恥心でどんどん俯き、耳たぶ、首筋まで赤くなっていく。
姫「み、三成様、そんなに見ないでください。
あなた様に見つめられると顔が熱くなって仕方ないんです」
震えて訴える声に三成がああ、と頷いた。
三成「申し訳ありません。女性とお付き合いしたことがないので加減を知らず……あなたがあまりにも美しく、可愛らしいので、つい」
ストレートな物言いに三の姫は何も返せなかった。
それでも『女性とお付き合いしたことがない』という言葉に首を捻った。
姫「お褒め頂きましてありがとうございます。父と母に感謝しなくてはなりませんね。
されど、三成様。女性とおつきあいしたことがないというのは…?」
三成は肯定するように頷いた。困ったような、なんとも複雑な顔をしている。
三成「そうです、一度も。若い頃から読書や算術の勉強や策略を練るのが好きでして、その時間を削ってまで女性とお付き合いしたいとは思いませんでした。
心配して周りの者が縁談を持ってきましたが断り続けてまいりました」
三成に想いを寄せ、身辺を探っても浮いた噂が1つもなかったことを三の姫は思い出した。
男色家という噂もちらほら聞こえたくらいだ。
姫は三成の言い分を聞いてなるほど、と納得した。
姫「では、何故私をお傍におきたいと思われたのですか?私が泣いてすがってしまったから仕方なく…ですか?」
三成「いいえ。それは理由ではありません。
私のような者をずっと慕ってくれていたのはさることながら、大罪人に身を落とした私を信じ、探してくださいました。
言葉を交わしたこともない人間をそこまで追いかけられる、あなたの美しい心に惹かれたのです。お顔をもっと見せてください」
姫の手を包んでいた両手が白い頬を柔らかく捕えた。
姫「…三成様」
視線を逸らすことも、顔を背ける事もできず、姫の翡翠の瞳が三成に向けられた。