第84章 結ぶ
間近で見つめ合うこと数分、三成が嬉しそうな笑みを浮かべた。
正座していた足を崩してあぐらをかくと、軽々と姫を抱き寄せた。
姫「きゃっ、み、三成様!?」
男性に抱っこしてもらうなんて、父と伊達の殿様以外いない。それも子供の頃の話だ。
腕の中にすっぽりと納まった姫を愛でるように、三成の手が柔らかな金髪をなでる。
三成「姫様…少し、胸を痛ませてしまいますが、お話を聞いてもらえますか?」
姫「?ええ、三成様がお話くださることならどのようなことでも」
三成は言葉を選びながら、叶わなかった初恋の話を姫に聞かせた。
もう何十年も前の話なのに三成には色褪せない綺麗な思い出だった。
三成「その方は言ったんです。
もし私のことを『全部大好き』という女性が現れたらその方と幸せになって欲しい、と。
そのような酔狂な方は居ないだろうと思いましたが…」
三成はフッと息を吐き、膝に抱えている姫を見おろした。
慣れない手つきで髪に触れるとひと筋とり、口づけた。
姫「三成様…」
三成「敵対していた関係にあっても、武将としての名が地に落ちたても、あなたは私を想い続け、探し、見つけ出してくださいました。
ありがとうございます、三の姫様……。
あの方が言っていたから、というわけではありませんが三の姫様が私を見つけてくださって、本当に嬉しいです」
本来ならば雪のように白い頬がさっきからずっと淡く色づいたままだ。
翡翠の目もフワフワの触り心地の良い髪も、ずっと尊敬してやまない家康の面影を宿している。
(まさか私の運命の糸が家康様の姫様と繋がっていようとは思いもしませんでした)
色恋とは無縁で人生を終えるだろうと、舞との思い出を大切に守ってきた。
目を閉じると舞が朗らかに笑っている。
なりなりを通して出会った二人は、長い過程を経てやっと結びつこうとしている。
(舞様…あなたを思い出にする時がきたようです。
幸せにと願ってくれたあなたもまた、500年後で幸せになってくださっているでしょうか?)
三成は舞の幸せを心から願い、その夜は姫が眠りにつくまで微笑みかけ、話をした。