第84章 結ぶ
家康「あー、遅くなった。もう暗くなるから危なくて三の姫を連れて帰れない。
ここに一晩留め置いて、明日迎えに来るとしよう」
棒読み口調で家康が帰り支度を始める。
三成は首を傾げ、三の姫は聞いていないという顔をして家康を見た。
三成「家康様、姫様を一人ここに置いて帰るのですか?」
姫「……?」
二人の鈍さに家康は苛立ちをみせた。
家康「一人じゃないだろう、三成、お前もここに泊まるんだろう?」
三成・姫「「え!?」」
二人同時に声を上げ、目をしばたかせる。
三の姫は金魚のように口をパクパクさせている。
家康「身の回りの世話をする者と警護の者は置いていく。
どうぞごゆっくり。次はいつになるかわからないんだからね。たくさん話しなよ」
『それと』と家康は三成の耳元に口を寄せ、何事かを囁くとあっという間に帰っていった。
部屋に残された二人はあっけにとられて、しばらく家康が消えた襖を見るばかりだった。
やがて落ち着きを取り戻した三成が三の姫に向き直った。
三成「三の姫様、父上様のご厚意です。今夜はたくさんお話をいたしましょう。
あなたのことをもっと知りたい…」
柔らかな笑みを浮かべて三成は三の姫の手を包み込むように握った。
姫「は、はい。私も三成様のことを知りたいと思います。あの…先ほど父は何と?」
三成「姫様に手を出した暁にはただではおかないと。順番を守るようにと言われました」
姫「っえ!?」
姫は頬に熱を集中させ、俯いた。