第6章 看病四日目 二人の香
「その……申し訳ありません。こんなことをさせてしまって」
脱いだままになっている草履と足袋の泥汚れに目がいき、私が歩いたところにくっきりと草履跡がついている
(あとで綺麗にしなきゃ)
謙信「そんなことはよい。お前が遅いゆえ、どこぞの道で難儀しているのではと佐助と話していたところだ。先ほど眠ってしまったがな」
みると佐助君は布団に横になっている。
「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。道が悪くて到着が遅くなってしまいました」
謙信「このような日に無理をせずとも良い。風邪をひかれては困る」
言葉通り困り顔で謙信様は頭をぽんぽんと撫でてくれた。
謙信「……髪も濡れているな」
少し鋭くなった視線が羽織や着物へ移る。
「時折風が吹いたので少し濡れているだけです。
すぐに乾きますよ」
濡れたところは拭いておけば問題ない。気にかかるのは泥汚れだ。
出来るなら時間が経たないうちに汚れを落としたいけれど、その処置はお城に帰らないとできない
城に帰ったらすぐにやろうと諦め、手渡された布で足を拭いた。
その間に謙信様は草履の汚れをとり、かまどの近くに干してくれた。
「謙信様っ!そんなことまでしてくださらなくても大丈夫ですからっ」
謙信「早く干さなくては帰りまでに乾かんだろう。このくらいなら俺でもやる」
「…ありがとうございます」
これ以上遠慮するのも謙信様を不快にさせてしまうかもしれない。
素直にお礼を伝え、佐助君の傍に寄る。
「おはよう、佐助君。遅くなってごめんね」
枕元には湯呑が置かれ、薬湯を飲んだ形跡があった。
(食後に飲む薬湯を飲んだってことは…)
「もしかして朝食は済ませてしまいましたか?」
何故か寝室に行ってしまった謙信様に声をかける。
夜着らしきものを手に、謙信様が姿を現した。