第84章 結ぶ
そして今朝だ。すっかり身支度を整えてから、
姫「父上様、母上が持たせてくれたこの着物、少し地味ではないですか?
ああ、やっぱりもう一つ持ってきたあちらの着物に着替えようかしら」
ソワソワと落ち着かず、ずっとうろうろしている姿は滑稽すぎて笑えた。
家康「あのさ、たかが三成に会うだけでそんなに気張らなくていいから」
姫「何をおっしゃいます!たかが、ではございません。あの三成様です。
父上様は何故三成様をいじめるような言い方をされるのですか!」
家康「いや、なんと言われようが三成だし。
それと三成が罪を犯していた場合は牢にいれた上、処罰を下すからな。
その時はお前のいう事は一切聞き入れないからそのつもりでいて」
姫「そのようなことにはなりません。けれど、万が一の時は…覚悟しております。
父上様、私の想いを三成様に伝えても良いでしょうか?」
家康「は!?伝えてどうすんの。あいつに色恋の話は通じないよ。
今も昔も政と戦略のことしか頭にないやつだ」
秀吉が生きていた頃は、三成に嫁をとあれこれ世話をやいていたと聞いたが、縁談がまとまったという話は最後まで聞かなかった。
生活力が全くない三成に女達が飽きれかえったか、三成が興味を示さず断ったか…おそらく後者だっただろうが、未だに独り身だ。
姫「そんなところがまた素敵なのに、父上様はわかっていないのですね」
家康「わかりたくもないんだけど」
(というか三成は女に興味があるのか?まさか男色ではないだろが…)
家康が一抹の不安をもったことには気づかず、三の姫は愛らしい顔をきりりとさせて言った。
その顔が怒った時の妻に似ていて、家康は口をつぐんでしまう。
姫「とにかく伝えなければ始まらないですし終わりもしません。
次に会える日はこないかもしれません。だから伝えなければと思うのです」
家康「ほんと気ままな我儘姫だな。いっそ政宗さんの側室にでもなれば良いのに。気が合いそう」
齢を重ねても周りを巻き込んで好き勝手する伊達家当主を思い出し、家康はうんざりした気分になった。