第84章 結ぶ
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家康「……」
見つめ合う二人を目の前に、家康は幼い姫がままごとをしている姿を思い出していた。
姫は玩具の膳に草や木の実をのせ、せっせとなりなりの口に運んでいた。
『父上もなりなりに、あーんしよ?』
『いや、遠慮しとく。俺、秀吉さんじゃないし』
『ひでよしって誰?』
『……』
姫となりなりを見ていると、書物を読みふけっている三成に、秀吉が食事をむりやりつっこんでいる姿が重なった。
……妙に落ち着かない気持ちにさせられたものだった。
月日が過ぎ、美しく成長した姫の食欲がなくなり、胸が苦しいと相談された時は驚いたけれど、よくよく話を聞けばその症状は三成のことを考えている時に出るという。
出来の悪い子ほど、とよく言うもので、姫らしからぬ自由奔放な三の姫が可愛くて仕方がなかった。
その姫が三成に恋をしたなど、夢なら覚めてくれとしばらく神仏に祈っていた気がする。
家康と三成が対立する立場になった時も
三成が死んだと知らせが入った時も
三の姫は三成を信じ想い続けていた。
その名は汚れきってしまったというのに、あの手この手で、ついに探し出した。
数か月ぶりに帰城した姫はとても興奮していた。
姫「父上様、あの方を見つけましたの!
護衛として、付き人の格三郎と助之進に三成様を見守るように言い置いてきました。
お願いです、どうか話し合いの場を設けてください。
あの戦の裏には何かあったはずなのです。
でなければ誰よりも賢いあの方が、あのような行いを犯すはずがありません。
忙しい?父上様が忙しくない時がおありですか?忙しいのは父上様が大変な時にグーグー寝ていらっしゃったからです。
文句を言っているその時が惜しいとは思いませんか!?
ほらっ、早くしてくださいませ!」
仕方なく本人か確認をとるところから始めて、周辺に何か動きはないか探りを入れている間、姫は毎日家康の元をおとずれて催促した。
秘密裏に会いたいと三成に文を出し、日取りが決まると『ついていく』と譲らなかった。