第84章 結ぶ
確認するように家康と三の姫を交互に見て、どうやら本気のようだと知り青ざめた。
三成「何故ですか?何故姫様は私のことをそんなに想ってくださるのですか」
姫「先ほども言いましたが理由などないのです。
私の心は三成様に奪われてしまいました。あなた以外考えられないのです。
この世のどこかに定められた相手が居るというなら私にとっては三成様なのです。
違う方に嫁ぐくらいなら、髪をおろし、太平の世が続くように、三成様が長く生きられるようにと生涯をかけて祈りましょう」
三成「……」
『死んでいった者のため幸せを手にしてはならない』
そう決めていたはずなのに、三の姫の決意が三成の心を強引に押し開いた。
長年続いた戦、絶え間なくふりかかる陰謀、秀吉の死、そして病の間に…全て失った。
三成の心は疲弊し消耗しきっていた。
供養のためと日々念仏を唱えようとも心は晴れず、虚しさだけが募った。
なんのために生きてきたのか…時々精神が危うくなる時さえあった。
沈んだ心に三の姫の想いが流れ込んできて、温めてくれた。
『無条件で三成君のことが一番好きって言ってくれる人が、この世のどこかに必ずいるよ』
舞にそう言われた時はなんと惨い事を言うのかと思ったものだったが、今はむしろその言葉が背中を押してくれる。
三成は温まった心を喜ぶように胸を押さえた。
三成「………運命の赤い糸、なのですね」
家康・姫「「?」」
三成「大陸から伝わったお伽話の本にあったのですが、男女の間には見えないけれど決して切れない赤い糸が繋がっているそうです。
この糸で繋がっていると、どんなに離れて居ようと、どんな境遇に陥ろうと必ず結ばれる運命(さだめ)にあるそうです」
三成は自らの右手を持ち上げ、小指をたてた。
そして見えないはずの赤い糸がさもあるように視線を辿り、三の姫の手を見た。
姫はハッとして三成に細い小指を差し出した。
姫「ええ、確かにここにあります。
見えなくとも、私と三成様が赤い糸で繋がっているのを感じます」