第84章 結ぶ
姫「わかっています。父にも言われました。
私の年頃の娘は恋に盲目になりやすいと。三成様から見たら私がまだ子供だということも。
それでも抑えきれないのです。
茶会からどれほど月日が流れようと、三成様が父の敵にまわったと聞いても忘れられなかった。
あなたを心からお慕いしております。
どうか他の殿方の元へなどと惨(むご)い事をおっしゃらないでください」
姫の涙が細い手首を伝い落ちるのを三成は途方に暮れたように見ている。
三成「三の姫様どうか泣かないで下さい。
私はあなたの想いを受け止められる身ではないのです。わかってください」
その時微かな音がして部屋の空気が鋭く動いた。
いつの間に抜刀したのか、家康は三成にたいし小刀を突き付けている。
三成は微動だにせず背筋を伸ばしたまま座り続け、家康を見返している。
姫「父上様っ!何をなさるのですか!?」
三の姫は仰天して咄嗟に家康の腕にすがりついた。
家康と三成の間には沈黙が訪れる。
やがて家康が小刀をしまい座りなおすと、緊張を孕んでいた三成もそっと息を吐いた。
二人の様子に争いの気配がないことに気づき、わけもわからず三の姫は家康の腕を離した。
家康「悪い、手が滑った」
姫「どうすれば手が滑って刀が抜けるのですか!
伊達のおじ様のような事をおっしゃらないでください!」
三成「いえ、姫様。私はあなたを傷つけてしまいました。家康様のお怒りはもっともです」
目くじらをたてて怒る姫を軽く流し、家康は三成に向き直る。