第84章 結ぶ
姫「父上様…その、申し訳ございません」
三の姫は少々気まずそうに謝っている。
三成はそれを微笑ましく見ていた。
(噂の真偽はともかく、三の姫様は家康様によく似ていらっしゃいますね)
顔立ちはもちろんのこと、少し物憂げな表情といえば良いのか、一見冷たく見える表情。
少し癖がある柔らかそうな金色の髪と鮮やかに煌めく翡翠の輝き。
三成がいつもの如くにこやかに笑っていたが、三の姫は目が合うとそっと視線を外し、薄紅を施した唇をキュッと噛んでいる。
その表情からは何も伺えない…そういうところも家康に似ている。
家康「なに借りてきた猫みたいになってんの。
朝は犬みたいにキャンキャンうるさかったくせに」
家康がそういうと姫の頬がさっと朱に染まった。
姫「父上様。それは恥ずかしいので言わないでください」
三の姫の視線は不自然なほどに三成に向くことはない。
三成は家康と話している姫をそっと観察し…疑問に思った。
三成「家康様、三の姫様。少しよろしいですか?」
翡翠色の瞳が4つ、三成へ向けられた。
三成「姫様が私を見かけて家康様に報告したとお聞きしたのですが、その…失礼は承知の上ですが、私はどこかで三の姫様とお会いしたことがあったでしょうか」
いくら女性に無関心な三成といえど、家康の娘ともなれば面識があれば覚えているはず。
しかしそういった記憶は皆無だ。
家康は首を横に振り、三の姫は俯いた。
俯いた際、髪にさしている簪が恥ずかしそうに揺れた。