第84章 結ぶ
それはまさに天下を治めた男にふさわしい威厳溢れた眼差しだった。
三成はそれを受け止め、嬉しそうに眼を細めた。
三成「今の家康様のお姿を見られて、とても嬉しく思います。
叶うことなら安土に集結していた皆様にも見て頂きたかった」
奥州に政宗が健在ではあるものの、安土に集まっていた面々の半数は世を去ってしまった。
一瞬悲しみをよぎらせ、それでも三成は嬉しそうに笑った。
家康「あの人達が生きていたら爺でしょ。
年取って頑固になってたら手の付けようがない。俺は御免だ」
ふん、と鼻をならす家康だったけれど、翡翠の瞳がわずかに揺れたのを三成は見逃さなかった。
穏やかな笑みを浮かべる三成に、家康は仕切り直すように咳をした。
家康「三成、この話は終いだ。真実を追おうにも術はない。
過去を振り返って何かするより、今は先を見なければいけない。
早急に江戸幕府を機能させ、この日の本を太平の世へと導く」
三成は同意を示すように返事をし、これからの家康の歩む道を思って頭を下げた。
三成「なんの手助けもできませんが、この地より家康様の活躍をお祈りいたします。
信長様、秀吉様から引き継がれたその大役、どうか家康様のお力で果たして下さいますよう、お願い申し上げます」
家康は三成をじっと見つめていた。
家康「お前に祈られなくとも俺は天下をおさめる。
問題はそこじゃない。お前がこの田舎に骨を埋めるか否かだ。
会って欲しい人間が居る。
その人間は俺の身内で、石田三成をこの地で見つけて報告してきた。
お前がどんな申し開きをするかで会わせるか会わせないか決めようと思っていたが、お前の話を聞いて会わせることに決めた」
三成「その方は、私が生きていると知っているということですね」
家康は頷いた。
家康「ああ。あいつを黙らせない限り、お前はこの地で隠居できないと思った方が良い。
とにかく…うるさい奴だ。
奥の間に待たせている。これ以上待たせたら乗り込んでくるかもな」
家康は「うるさい」と面倒そうに言ったが、本心からそう思っていない響きがあった。