第84章 結ぶ
家康「俺が豊臣家と争う必要はないと思っていたから…か?
俺がそう考えている限り、あの大戦は起きなかった。だからなのか?」
そんなことがあるのだろうか?
起きなければいけない戦があり、それを起こすために二人の人間を病に陥れる未知の力。
家康は深刻な顔をして、突拍子のない話に黙り込む。
三成「時の悪戯と言うべきなのでしょうか…
500年先の舞様が偶然この時代に現れ、本来おこるべき事実を変えようとした。
それを『時』が許さなかったのかもしれません」
家康「そんな馬鹿なこと…」
家康は息を呑んだ。
そしてふと舞の言葉が蘇った。
『ねえ、家康。戦がなくなったら家康はまっさきに何をしたい?』
家康「あれは…俺が天下を治めるのを知っていたからだったのか?
俺が戦のない世を作ると知っていたから…っ」
家康が愕然として言葉を漏らした。
三成「家康様?」
三成が心配そうに見ていたけれど、家康は反応することもできずにいた。
フニャフニャと笑っていた女の顔が鮮やかに思いだされた。
(とんでもなく大きな秘密を抱えて、なんであんなに無邪気に笑えたんだ。
得にもならないのに俺達の未来を守ろうとしたり!
あんたみたいにお人好しの女、他に知らない)
家康は憤りのようなものを覚えたが、少しの間をおいて冷静さを取り戻した。
(三成と戦をしないで欲しいという、あの娘の願いは叶わなかった。
けれど無下にはしない。『戦がなくなったら真っ先に何をしたいか』という問い………あの時はあり得ないと答えたけど、今の俺は『結ぶ』と答えよう。
舞、500年先の世で俺の答えを見てくれるか?)
三成は舞を慕っていると言った。
家康とて今は妻子ある身ではあったけれど、安土に居たあの頃、確かに舞を慕っていた。
その想いを胸に、家康は三成を正面から見据えた。
何かしらの意志を固めた家康の眼差しは強く、三成を圧倒した。