第83章 嵐の前の日常
行商人「お子さんは三人居るんでしたね」
「ええ。一番下の子は7歳になりました」
行商人「その歳だとわんぱくで大変でしょう?」
「本当に……兄姉と喧嘩も絶えませんし、毎日大変です」
冬の間こもりっぱなしでつい愚痴っぽくなってしまった。
新たに布と糸を仕入れ、途中、食料を買いに行っていた蘭丸君と合流し、雑談しながら家に帰った。
港の市場で小魚をたくさん分けてもらったとか、漬物をもらったとか、いろんな人と仲が良い蘭丸君の買い物はあんまりお金の必要がない。いつもそんな感じだ。
蘭丸「今度は何を作るの?」
蘭丸君は背中に大きな籠を背負っているけど、身のこなしは軽い。
幸村と交互で謙信様の相手をしているし、華奢なのに凄いなぁって思う。
「えっとねー、蘭丸君には秘密なんだ。ごめんね」
蘭丸君のパッチリとした目がきゅるんと悲しそうに揺れた。
蘭丸「えー、酷いなぁ。俺と舞様の仲なのに」
「う、そんなに可愛い顔されても教えない!
出来上がったら見せるから…貰ってくれる?」
蘭丸「それって、俺に何か作ってくれるの!?」
辺りがぱぁっと明るくなるような笑みを浮かべ、詰め寄ってくる。
「蘭丸君、近い近い!正解。
本当はもっと早く作りたかったものなんだけど、材料がなかなかそろわなくてね。
急いで作るから楽しみにしててね」
信長様が『蘭丸は武将くまたんを見て羨ましそうにしていた』と言っていたので、ずっと小姓くまたんを作ってあげたいと思っていた。
なかなか納得ができる材料が集まらず時が経ってしまったけど、ついに全部そろった。
やっと作れると意気込みながら帰り道を歩いていると、
蘭丸「信長様達、元気にしてるかな」
ポツンと蘭丸くんが呟いた。