第82章 秀吉の願い
秀吉「三成、この日誌をもとに蝦夷に再度調査団を編成してるよな?」
三成「はい。あと数日で出航予定です」
秀吉は一瞬言葉を詰まらせた。
あれは夢だったのか、だが、もし本当だとしたら今蝦夷地に行っても信長達は居ない。
夢で舞の記憶を垣間見た限り『本能寺の火事より30年後の蝦夷地に降り立った』という話だった。
今は、本能寺の火事から20年程しか経っていない。
秀吉「その調査は空振りになるかもしれない。
そうしたら…ボケた爺の戯言と思って、10年後、もう一度調査に向かわせてみろ」
三成「先程日誌の夢を見たとおっしゃっていましたが…」
頭の良い三成は察したようだ。
秀吉「本能寺の火事は光秀が火を放ったんじゃなく、間違いなく落雷が原因だった。
信長様と蘭丸は火に囲まれて死ぬところを『朝日殿』に助けられ、『30年後』の蝦夷に『飛んだ』っていう夢だった。
おっかしいよな。馬鹿みたいな話なのに夢で終わらせたくなくて信じたい俺が居るんだ。
10年後俺は生きていないが、三成、俺の代わりに確かめてくれないか?」
三成「蝦夷に向かわせた家臣達は嵐に巻き込まれ、なんの悪戯か10年の時を超えて蝦夷に流れついたということですか。夢物語のようですが…」
三成は顎に手をあてて考えていたが、頷いた。
三成「承知いたしました。本当であればどんなにか嬉しいでしょう。
私も秀吉様が見た夢の真偽を確かめたいと思います。
秀吉様、ところで『朝日殿』とはどんな方なのですか?」
秀吉「……」
三成「寝てしまわれましたか」
三成は秀吉の布団を首まで掛けなおし、寝所を後にした。