第82章 秀吉の願い
謀反人、反逆者、三日天下様、世間で明智光秀は口汚く言われている。
誰にも見向きされなくなった武家。
その臣下の元に、大事な秀頼を預けるなどと誰も思わないだろうと秀吉は考えた。
ねねはわかりましたと答え、城を出る算段を聞いてきた。
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話が終わり、ねねが挨拶をして去ろうとすると秀吉が引き留めた。
秀吉「ねね、達者でな。おそらくお前が帰ってくる頃、俺は生きていないだろう。
俺が死んだら、どこかの寺に身を移し、のんびり暮らしてくれ。
お前には長いこと世話になった。ありがとう」
ねねは絶句し瞬きを繰り返していたが、はっきりとした口調で言葉を返した。
ねね「本当に最初から最後まであなたに振り回された人生でした。
殿が亡くなったら尼にでもなって菩提を弔いましょう。
織田信長様は尾張のおおうつけと呼ばれておりましたが、私にとっての殿は信長様に負けず劣らず、おおうつけでございました。
天に召されたあかつきには天上にて信長様と大いにやりあって下さいませ。
お別れは申しません。いってまいります。
殿の最後の願いは必ず成してみせます」
ねねは美しい所作で立ち上がると背を向けた。
その細い肩が震えているのを秀吉は見逃さなかった。
秀吉「大うつけか…ははっ、最高の誉め言葉だ。
ありがとう、ねね」
ねねは小さく頷き着物の裾を綺麗にさばきながら寝所を後にした。
秀吉と三成だけになった。