第82章 秀吉の願い
秀吉「その者の本当の名は九兵衛。
明智光秀の片腕だった男だ」
ねね「そうですか……え、今なんとおっしゃいました!?え、えぇ!?」
年甲斐もなく素っ頓狂な声をあげてしまい、ねねは慌てて口を押さえた。
ねね「お見苦しいところを…失礼致しました。それで大丈夫なのですか?」
秀吉「大丈夫だ。光秀が死んですぐに九兵衛が秘密裏に俺を訪ねてきたんだ。
『主(光秀)が反逆をおかしたとは信じがたく、主を討った相手に聞くのはおかしなことだが最期の様子を知りたい』とな」
三成「秀吉様と私は、光秀様が死んだ時の様子を九兵衛殿に話しました。
九兵衛殿は納得してくださり、主は光秀様のみと隠密の場から身を引くとおっしゃいました。
去り際に、『光秀様を看取ってくれた礼と真実を教えてくれた礼は忘れない、何かあったら頼って下さい』と行き先を言い残していかれました」
ねね「真実とは、光秀様は裏切っておらず、秀吉様と三成様を助けて亡くなった…ということですよね」
ねねは以前秀吉にその話を聞いたことがあった。
秀吉「ああ、そうだ。光秀は裏切り者なんかじゃないと言ったら九兵衛は泣いていたよ」
ねね「…」
三成「秀吉様が光秀様の縁者を頼るなんて誰が想像できましょう。
九兵衛殿は武家の礼儀作法や文学にも精通しており、剣の腕も確かです。
お年を召していますが秀頼様に教えるくらいはできると快諾して下さいました」
秀吉「信用できる男だ。あの光秀が信を置き、右腕にしていた男だからな」
ねね「『明智光秀の右腕は信用できる』なんておっしゃるのは日ノ本中、秀吉様と三成様だけなのでは。本当に、良いのですね?」
秀吉「ああ、九兵衛に是非にと頼んだ。俺は信じている」