第5章 看病三日目 護身術と誓約
「っ!」
薄茶の目が驚きで見開かれたと思えば瞬時に曇った。
「っ、どうしてそんな辛そうな顔をするんですか?」
(どうして?そんなことはわからぬ)
義理や人情では説明がつかないモノが『お前を守りたい』と叫んでいる。
それを知られたくないのに察しろなどと勝手なことを考えている。
顎を捉えた指から舞の温もりが伝わってくる。
揺れ動く薄茶の眼差しを見ていると……酷く心が乱された。
(この感覚はなんだ。芽吹いたモノが、花開くような……)
正体を探っても、知ってはいけないと古傷が俺の目を逸らさせる。
だがわからずとも変化はおきた。
古ぼけた一室。
粗末なものしか無い部屋が突然色をつけたように輝いて見えた。
(っ!?)
改めて舞を見て………愛らしい表情に目を奪われた。
(この女はこんなに綺麗だっただろうか?)
謙信「舞、俺は…」
何を言おうとしているのか自分でもわからない。
だが切羽詰まったように、言葉を届けたくてたまらなかった。
「謙信様…」
顎をとらえられたまま舞が口を開いた。
その続きを聞きたくて胸が締めつけられた。
紅をひいていないにも関わらず綺麗な色をしている唇が、次の言葉を発しようとした時、外を子供が駆けていった。
互いに夢から覚めたようにはっとした。
(今のはなんだ?夢の中にいるような心地だった…)
少し早くなっている鼓動を落ち着かせる。
瞬きを繰り返して見れば部屋も変わったところはない。輝いて見えたのは気のせいだったようだ。
舞は言いかけた言葉の先を言うでもなく、その日は難しい顔をして俺に近づいてくることはなかった。