第5章 看病三日目 護身術と誓約
(謙信目線)
食後、気分が落ち着いた頃に体術の心得があるか問うと、幾つかの護身術を身に着けていただけだとわかった。
牧が刀で攻撃していたなら舞の命はなかった。だというのに当の本人はあっけらかんと、
「易々と死ぬつもりはないですが」
と笑っている。
根拠のない自信はどこから来るのだろう。非力な女であるというのに。
だが……なぜだろう。この女は最後の瞬間まで自分の力を諦めず、生き抜こうとするだろう、そんな気がした。
健気な強さが眩しい。
(何だ…ただの女に俺は何を感じている?)
安土の人間だと突き放した。佐助の女、それだけの女だ。
(だが失いたくない)
理由はわらかないが、この女の存在が胸にさしせまるように俺を染め上げていく。
(守らなければ……せめて佐助が回復するまでは、この手で守る)
謙信「すまなかったな。俺はお前を守る立場にありながら、この場を離れた。
一歩間違えればお前を失うところだった。
書状のやり取りは早朝か深夜に限定していたが今回の事もある。
お前がここに出入りしていることを軒猿の連中に周知させるよう命じておいた」
「謙信様が謝ることじゃないですよ。
ここに通っているのは私の勝手でしていることですから」
謙信「いや。お前がここに通いたいと言い、それを許したのは俺だ。
お前の身の安全を守るのは俺の役目だ。
次はない。この刀に誓い、今度こそ俺はお前を守ると約束しよう」
素直に俺に守られることを承諾しろ。
(俺に守らせろ)
舞は片手を胸に添えて嬉しそうに頷いた。
眩しい笑顔が枯れ果てた俺の心を照らした。
暖かい風と、明るい光に誘われるように枯れた心の奥底から何かが芽吹こうとしている。
「ありがとうございます。謙信様にそう言ってもらえると心強いです。
謙信様は律義な方ですね。看病させてくれって我儘を言ったのは私なのに…」
(違う。律義だとかそんな理由ではない)
つきあがる衝動に身体が勝手に動き、舞の顎に手を添え、身を近づけていた。