第82章 秀吉の願い
三成「ええ、家康様なら必ず日ノ本を導いてくださると思います。
今も昔も、尊敬してやまない方です」
秀吉と、信頼している三成にそう言われてしまえばねねもそれ以上は言えなくなる。
(あの家康殿が…?)
齢を重ねればひねくれた物言いもいくらか治るかと思っていたが、この間会った時もつんとした態度だった。
ねね「憎たらしいお方ですが、100歩譲って家康様が天下人になられたとして、秀頼様はどうなさるおつもりで?」
ねねは『憎たらしい』と皮肉をこめることで納得できない気持ちを静めた。
秀吉「秀頼がある程度成長したら家康の傍に置いてもらうよう頼むつもりだ。
あいつの傍で秀頼が何を見て感じるかわからないが学ぶことは多いだろう。
家康の跡を継ぐ人間になって欲しいとは思うが、そこからは秀頼次第だ」
ねね「家康様が亡き後、再び豊臣家が天下を、とは思わないのですか?」
秀吉「……ああ。無理にそれを押し付けるのは、いくら親でも違うと思うんだ。
俺は自分でこの道を選び、ここまで駆け上がった。だから秀頼にも自分の道は自分で選んで進んで欲しい。
天下人なんていう日ノ本で一番重たい立場を、選択肢もなく子に押し付けるなんてしたくない。
豊臣の名が廃れようと俺はねねや秀頼に生きて欲しい、そう思っている」
若かった秀吉は家族と豊臣家とどちらを選ぶかと聞かれ、選べないと答えた。
が、今ははっきりと家族が大事だと強く思った。
ねねは呆れた顔をして大きく息を吐いた。
ねね「呆れたこと。一代で築き上げたモノを無下になさろうとしているのですよ?
常ならば自分の子を後継ぎにと思うのが親心なのに、あなたという方は本当に…」
ブツブツと小言を言い、やがて押し黙った。
秀吉「ねね……俺の最後の頼みだ。どうかきいてくれないか?」
眉を下げ秀吉が頼むと、ねねは反対に眉をつりあげた。