第81章 不思議な夢
――――
――
(姫目線)
「ただいまもどりましたっ」
ガラッ
砂浜を駆け戻り、家の戸を勢いよく開けた。
開いた扉の勢いに、部屋に居た謙信様がこちらを向いた。
庭の方から結鈴と龍輝が剣道の稽古をしている声がする。
抱っこ紐から瑞穂をおろすといそいそと歴史書を開いた。瑞穂を抱っこしまま走ったから息が苦しい。
謙信「そのように慌ててどうした。さっき散歩に出たというのに」
たいして時間も経っていないのに戻ってきたので、謙信様も不思議に思ったのだろう。
信長様達が船出してから数日。
心配と寂しさで時々散歩と称して、海を見に出かけていた。
いつもなら誰かが付き添ってくれたけど、今日だけたまたま一人だった。
「ちょっと気になることがあって……」
肩で息をしながらパラパラと紙を捲り…手を止めた。
もう何度も見返した秀吉さんのページだ。
ドキドキと心臓が脈打ち、緊張で指が震えた。
「秀吉さんの記述が………変わってるっ!」
膝から力が抜けへたりこんだ。
何度も何度も同じ箇所を読み直す。
昨日見た時は何も変わっていなかったのに。
変わったのはきっと…今だ。
「さっき砂浜で秀吉さんに…っ」
会ったんです、そう言おうとして嗚咽がこぼれた。
謙信「落ち着け、秀吉がどうした」
謙信様が背中をさすってくれると高ぶった気持ちが落ち着いてくる。
私は途切れ途切れに説明した。
元々の秀吉さんの生涯と豊臣家の滅亡について。
安土で信長様と秀吉さんと三人で話した内容、そして、ついさっき砂浜で会った年老いた秀吉さんのこと…。
謙信「砂浜に年老いた秀吉が歩いていたというのか?」
「いいえ、宙に浮いていました。
身体も半透明で、向こうの空が透けて見えていました」
謙信「狐に化かされたのではないか?」
謙信様が心配そうに私の手を取った。
「わかりません。でも以前見た時と内容が変わったのは事実です。
秀吉さんが消える瞬間、私、叫んだんです。信長様の言葉を思い出してって。
秀吉さんは笑って頷いたんです」
謙信「お前がそう言うなら信じよう」
謙信様は頷くと、歴史書に目を通した。