第5章 看病三日目 護身術と誓約
「っ、どうしてそんな辛そうな顔をするんですか?」
顎に添えられた指が熱い。
その熱で私の中にしまってある感情が外に出たいと暴れ始める。
『好き』『傍に居たい』『傷ついた心に寄り添いたい』
強い想いが心の蓋を壊した。
「あ…」
それらが体中を好き勝手に駆け抜け、全身が熱くなった。
制御できない熱さに涙が滲み、少し開いていた口から熱を孕んだ吐息が漏れた。
謙信「舞、俺は…」
何かを伝えようとした声はそこで掠れ、途切れた。
胸がきゅっと締め付けらた。
きっと私の目は熱に浮かされたように揺れているだろう。
謙信様に気持ちがばれてしまうとか、そんなことも考えられないくらい余裕がなかった。
「謙信様…」
『あなたが好きです』そう言いそうになった時、外を数人の子供が楽しそうな声をあげて駆けていった。
我に返ったように謙信様の指が顎から離れた。
私もまた子供の声にハッとなり、居住まいを正した。
(今のはなんだったの?)
心臓がドキドキと鳴りやまない。
謙信様の突然の行動が理解できなかった。
口から出そうになった言葉をむりやり引っ込めて、自分の行動に後悔した。
(過去の人に関わっちゃいけないんだってば。私のバカっ!)
自分を叱咤し、冷静さを取り戻す。
何事もなかったように平静を装い立ち上がった。
これ以上何か言われたりされたりしたら、間違いなく自分を抑えきれない。
その日は夕方まで謙信様の傍には近寄らないようにした。