第81章 不思議な夢
雷を使って国へ帰った舞。
その後、どんなに手掛かりを探しても何もみつからなかった。
まるで舞という人間がこの世に居ないかのように…。
(舞はもしや……この時代の人間じゃないのか)
どんな夢なんだ、と秀吉はこめかみを押さえて平静を保つ。
『今度はたくさんの幸せに囲まれて暮らそうね。
秀吉さんに幸せになってもらいたかったよ。
死ぬ瞬間に『幸せだった』って思って欲しかった…』
(俺が幸薄い人生だったって知ってるんだな…)
500年後の人間なら過去の…豊臣秀吉の最後を知っていても不思議ではない。
今更どうあがいても格好のつかない自分に目線を落とした。
『せめて秀吉さんの願いは叶って欲しい。叶って欲しかった…』
(願い?俺の願いってなんだ)
少し前にも感じた焦燥感。
(自分の願いを忘れるなんてあるのか?)
必死に考えを巡らす。
夢とか現(うつつ)云々ではなく、思い出さなくてはいけない。
信長の言葉を思い出す。
『三人で話したあの時を忘れておらぬなら……あやつの望みは先の世へつながるやもしれん』
(信長様と舞と俺の三人で話した…?
何を話した…?)
衰えた脳は働きが鈍い。
苛立っていると舞が居た頃の記憶の中で、『ここだ』というように眩しく光るものがあった。
秀吉はその記憶に手を伸ばす。
それは何故忘れていたのかわからないくらい大事な、大事な記憶だった。