第81章 不思議な夢
信玄「ああ、だから悪かったと言っているだろう?」
幸村「わかってない!あのあと武田家がどうなったか、甲斐の国がどうなったか……。
あんたは見てないでしょう?」
やるせなさと抑えきれない怒りで声が震えている。
信玄様はその気持ちを受け止め、幸村の肩に手をおいた。
信玄「そうだな。見てはいないが『知っている』。
それに500年後の甲斐の国を見てきた」
幸村「…え?」
信玄「信じられないくらい実り豊かで平和な国になっていたよ。
誰からも虐げられることなく、侵略されることない穏やかな国になっていた。
甲斐の国だけじゃなく、日ノ本全部が」
信玄様はその風景を思い出すように遠い目をした。
信玄「俺が戻らず武田家は衰退し、家臣達も無念の思いで各地に散らばっていったことだろう。だがな、その歴史があっての500年後の平和だと思うんだ。
俺が舞い戻ったとしたら、あの桃源郷のような国が存在しなくなるかもしれない。
そう思ったら帰れなくなったんだ」
幸村「~~~っ、500年後の日ノ本なんて知らねえ!でもっ!
信玄様が自分の意志で帰らないと決めたなら従うまでです。
……生きていてくれて…良かった」
目を覆った幸村を信玄様が優しく引き寄せた。
信玄「お前には苦労をかけちまったな。
こんな親父になるまで戦い続けて、偉いぞ、幸」
幸村「子供扱いしないでくださいよ!
俺はあんたより長く生きてるんだからな!」
そう言いながら幸村はがっちりと信玄様に抱き着いた。
信玄「やれやれ、野郎に抱き着かれるなんて最後にして欲しいもんだな。
でもまあ、生きてくれて良かったよ、幸」
幸村の背中をポンポンと叩く信玄様の目は、少しだけ潤んでいた。