第5章 看病三日目 護身術と誓約
謙信「そのとぼけた顔では無自覚だろうな。
女とは非力で儚く命を散らす存在だとばかり思っていたが、お前は違うようだ」
「かいかぶりです。私はそんなに強くないですよ?
さっきだって謙信様や佐助君が居なければ次の行動であっさり捕まっていたと思いますし」
謙信様は難しい顔で黙ってしまった。整った顔立ちに憂いが漂う。
謙信「すまなかったな。俺はお前を守る立場にありながら、この場を離れた。
一歩間違えればお前を失うところだった。
書状のやり取りは早朝か深夜に限定していたが今回の事もある。
お前がここに出入りしていることを軒猿の連中に周知させるよう命じておいた」
「謙信様が謝ることじゃないですよ。
ここに通っているのは私の勝手でしていることですから」
謙信「いや。お前がここに通いたいと言い、それを許したのは俺だ。
お前の身の安全を守るのは俺の役目だ。
次はない。この刀に誓い、今度こそ俺はお前を守ると約束しよう」
「謙信様…」
初日にネズミを退治した時にも同じように言われたけど、看病に来たいと言いだしたのは私なのだから、ここで起こることは自己責任だ。
それなのに西洋の騎士さながらに、謙信様は愛刀に手を添えて誓約を口にした。
真摯な姿に胸打たれた。
「ありがとうございます。謙信様にそう言ってもらえると心強いです。
謙信様は律義な方ですね。看病させてくれって我儘を言ったのは私なのに…」
そこまで伝えたところで謙信様の指に顎をすくわれた。
こちらへ身を寄せた謙信様と間近で向き合った。
「っ!」
目の前の二色の瞳を必死に見返しすと今日はなんだか色合いが深く見えた。
整った顔立ちが何かに耐えているように苦しそうに歪んでいる。