第5章 看病三日目 護身術と誓約
(姫目線)
謙信様は食後のお茶を飲んで一息つくと、
謙信「お前は体術の心得があるのか?」
と聞いてきたので、いいえと答えた。
「身を守るための護身術を幾つか知っているだけです。
以前働いていた仕事場は女性ばかりで、帰りも遅くなる事が多かったんです。
変質者に出会った時のためにと雇い主が護身術の先生を招いて実践を含んだ講義を受けさせてくれたんです」
謙信様は感心したように頷いている。
「他に手首を掴まれてしまった時と、後ろから抱きつかれてしまった時の対処法と3つだけ重点的に教わりました」
謙信「なるほど、男が女に手を出す際はその3通りが多いだろう。
だが相手が刀を持っていた場合はどうする?」
一瞬返答に詰まる。
「そうですね。相手がそういう得物を持っていた場合の護身術もありますが、限られた時間内での講義だったので習得していません」
謙信様の顔が曇り、持っていた湯呑をコトリと置いた。
謙信「忍んできた者が刀で切りつけていたなら、お前は死んでいたということだな?」
普段から色白の顔がすっと青褪めた…ように見えた。
すぐ傍に佐助君が居たけれど、あのタイミングで助けを呼ぶのは不可能だった。
そう考えると刀や苦無で襲われなくて良かったと思う。
「そうなりますね。まあ易々と死ぬつもりはないですが」
謙信「そう簡単に言うな。刀で襲われれば命はない。
だがお前も佐助と一緒でそう簡単に死にはしない、そう思わせる何かがある。
お前たちの国の人間は皆そうなのか?」
そう言われても正直ピンとこないので首を捻る。
「そんなことはないと思います。
佐助君はびっくりするくらい適応力があるというか器用なので特例だとは思いますけど」
私自身はどこにでも居る、普通の人間だ。
謙信「乱世には染まっておらず危うい女だと思ったが、ここ数日一緒に居てわかった。
お前からは生き抜こうとする強さを感じる」
「そうでしょうか。あまり自覚がないのでわからないですが…」
(生命力があるってことかな)
そんなこと言われたことがなくて、なんだかこそばゆい。