第81章 不思議な夢
(……俺、なのか?)
赤と緑の着物。若い頃の出立に覚えがあった。
「ふふ、秀吉さん人形です。これで信長様も心強いでしょう?
こっそり持てるように小さく作りました。肌身離さずお持ちくださいね」
信長「貴様、何故秀吉を模した人形を俺が持ち歩かねばならんのだ」
「だってもし秀吉さんがここに居たら、一緒に行きたいって言うと思うんです。
でも秀吉さんは一緒に行けないでしょう?
だからせめて人形の秀吉さんを連れて行ってあげてください」
(舞…お前は俺のこと、わかってくれてるんだな)
数か月一緒に過ごしただけだったのに、天井付近で浮かんでいるしかできない自分の気持ちを舞は代弁してくれる。
光秀「小娘は余程秀吉が好きなんだな。
あまり秀吉、秀吉と言っていると嫉妬深い旦那が怒り狂うぞ?」
「わ、わかってます。だから謙信様が居ない隙をぬってこれを作りました。持って行って頂けませんか?」
信長は光秀から返ってきた人形を眺め、口の端を緩めた。
信長「今生は最後まで共におらなんだが、あやつとは来世で巡り合う気がするな。
この人形は俺の荷物に括りつけて持って行こう」
「信長様、は・だ・み・は・な・さ・ずです。
荷物は盗まれてしまう可能性がありますから」
舞は手を伸ばし人形をとると、あっという間に信長の着物の袷に押し込む。
着物の袷から秀吉人形の顔がヒョッコリ出ている。
光秀「おやおや、秀吉のやつ。嬉しくて悶え死ぬのではないか」
口元に手をやり、光秀がクツクツと笑った。
秀吉は秀吉で口元に手をあて、慌てていた。
(嬉しいが…なんてことするんだ、舞!)
滑稽な姿に信長はわずかに目を見開き、胸元から人形を取り出した。
憮然とした表情の信長に舞が微笑む。