第81章 不思議な夢
光秀「まぁ、心配するな。心配してもしなくても事は進むものだ。
だったらのほほんと過ごしていた方が気楽だろう?」
「そうですけど………」
信長「案ずるな。謙信の傍に居て腑抜けた顔で笑っていろ。縁があればまた会えるであろう」
信長は舞の頭に手を乗せた。
「またお会いしたいです。信長様にも光秀さんにも。だからどうぞご無事でいてくださいね」
頭に乗せられた手に細い手を重ね、舞が俯いた。
顔が見えないが、おそらく薄茶の目には涙が浮かんでいる…秀吉は涙を拭ってやりたくて仕方がなかった。
信長と光秀は視線を合わせ『やれやれ』という表情をした。
信長「たとえ離れようとも同じ空の下であろう。そう寂しがるな」
光秀「……」
妖しい笑みを浮かべた光秀が舞の左手をとったのを見て、秀吉は嫌な予感がした。
(光秀のやつ、まさか……)
ちゅっ
手の甲に戯れの口づけを受け、舞が慌てて左手を引っ込めた。
「み、光秀さん!」
耐えていた涙は驚きで引っ込んでしまったようだ。
光秀「ふっ、少しは気が晴れたか?心配は無用だ。
秀吉が居ない分お前が心配していると言うのなら、明日からは秀吉とお前の代わりに俺が信長様を心配し、守ろう」
(光秀……)
一緒に居た頃は何を考えているかわからない男だった。
ここまで素直に言葉を紡ぐ光秀を見たことがない…。
(こいつは信長様や、舞の前ではいつもこうだったのか?)
『光秀がどんな男かそのうちわかる』
『意地悪だけど……光秀さんは優しい人だね、秀吉さん』
信長と舞は光秀の忠誠も心の内もしっかり見えていたのだ。
それがハッキリとわからなかった秀吉は随分と光秀に食って掛かったものだ。
(そうか。光秀が一緒なら……安心だな)
安土に居た頃は光秀を『安心』などと思ったことはなかったが、あの崖崩れから命を助けられ、今の会話を聞いた後では誰よりも信用できた。