第81章 不思議な夢
(俺は天下人の器だったのだろうか)
考えないようにしていた。
天下を治めてから数々の政策を打ち立てたが、信長ならもっと上手くやったのではないかと。
この政策は本当に民のためなのか。自分よがりではないかと判断を鈍らせることもあった。
日ノ本のてっぺんに立ってみれば自分の器の小ささばかり自覚し、いつも信長の背を負いかけては最後には目を背けた。
今思えば汚いやり方でこの地位を手に入れた。
死を目前にした今、そのことがひどく重たくのしかかった。
そこまでして手に入れたのはなんだっただろうか。
自分にひれ伏す大勢の人間、豪華な城、贅を尽くした品々、年の離れた若い側室。
どれも心を満たさない。
秀吉は苦い気持ちになり、信長の穏やかな表情を見ているのが辛くなった。
(信長様は冷たい目をなさっていたが俺達を信頼して、いつも導いてくださった。
信長様には俺達が居た……俺は、俺は……どうだ?)
何もない
誰も居ない
(俺が得たものはなんと儚いものか……)
たちまち心が冷えた。
なんのために生きたのだろうと、虚しい思いが無尽蔵に溢れ出てくる。
女「私があの時連れてきてしまったばかりに、奥様やお子様に会えなくなってしまいました。寂しくはないですか?」
切ない表情をしているだろう…そんな声で舞はたずねる。
(何故…なんで舞の顔だけ見えないんだ?)
冷たい胸の内を仄かに温めてくれているのは紛れもなく舞なのに、顔にもやがかかって見えない。
(顔を…見せてくれ)
動かない身体の代わりに、手を伸ばした。