第81章 不思議な夢
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褥に舞が横になっていて、その隣に生まれたての赤子が静かに寝ている。
傍には謙信が座り、舞の手を握っている。
謙信「少し眠ったようだが大事ないか?
子を産むのがあのように大変なものだとは知らなんだ。よく頑張ってくれた」
謙信が愛おし気に髪を撫でて労っている。
女「ありがとうございます。大変でしたが今回は謙信様が居てくださいました。とても心強かったです」
秀吉は複雑な思いがしたが、目の前の二人は心から愛し合っているようだ。
二人が赤子の顔を見て微笑み合っていると、蘭丸を従えた信長が訪ねてきた。
(蘭丸もやはり生きていたのか)
謙信「何の用だ、信長。舞は子を産んで疲れている。用があるなら出直せ」
(上杉の野郎、信長様になんという口の利き方を!)
そこまで思いはっとする。
信長を目にした時から自分が天下人であることを忘れ、信長の右腕であった頃に戻ってしまっていた。
どんなに時を経ようと信長への忠誠は変わらないようだ。
信長「舞は貴様の妻であるのと同時に織田の姫だ。労いに来てなんの問題もなかろう。
それに俺は舞の父親がわりだ。そうであろう?舞」
「え?ええ、そうですね。信長様は『お父さんみたい』ですものね。ふふっ」
秀吉も武将くまたんの『のぶたん』の説明を思い出し『そうだったな…』とつられて笑った。
(この夢は胸が温まる)
秀吉は久しぶりに人間味のある感情を胸に抱いた。
天下人として冷えていた心が温められ、溶かされていく。
謙信「ほお?それは初耳だ。舞、あとでじっくり話を聞いてやる」
面白くなさそうな顔をして謙信は立ち上がった。
謙信「信長、手短に済ませろ」
信長「俺とて子を持つ親だ。どれほど舞が疲れているかわかっておる」
色違いの瞳と赤い瞳が空中でバチバチとぶつかり合う。
蘭丸が気を利かせて謙信を連れて去ると、信長は赤子の顔を覗き込み、いつになく柔らかな笑みを浮かべた。