第81章 不思議な夢
(……っ!)
天下人となった秀吉を『秀吉』、『秀吉さん』と呼ぶ者は居ない。家族でさえも。
そう呼ばれていたのは信長に仕えていた頃、もう20年前の話だ。
光秀「ふっ、お前も秀吉に負けず劣らずお人好しだからな?朝日殿」
女「そ、それは、あの人達を見つけた時にたまたま朝日が綺麗だったからとっさに偽名を使っただけで…」
光秀「ほう?では知らずに名乗っていたのか」
女「なんのことですか?」
光秀の口の端が吊り上がる。
光秀「秀吉の実妹(じつまい)は『朝日姫』だ」
女は驚いて声も出せないようだった。
その様子に信長が鼻先で笑った。
信長「秀吉に妹のように可愛がられた貴様が、知らずに『朝日』と名乗るとは奇妙なこともあるものよ」
秀吉は片手で口元を覆った。
(やっぱり朝日殿の正体は…)
ほんのわずかな時を過ごした女。
真っ白な雪原で別れて、それっきりだった。
若い頃、秀吉はあの女に恋をしていた。
秀吉「舞……!」
女の名を口にした途端、また場面が切り替わった。