第81章 不思議な夢
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目の前の風景がまた変わった。
部屋には女の他に男が二人座っている。
見覚えのある姿に秀吉は息を呑んだ。
(あれは……)
懐かしい姿に胸が打ち震えた。
齢を重ね、弱くなった目を必死にこらす。
近寄りたいが半透明の身体は心許(こころもと)なく揺れるだけだ。
しかし近寄らずとも男の声を聞いた瞬間に秀吉は確信した。
信長「秀吉の部下達は出立したのか。急いで帰らずとも秀吉も怒るまいに」
『秀吉』と名を呼ばれ感動で身が震えた。
(この声、やはり信長様だ!しかしあのお姿はどうして…)
謙信と同様、信長も若さを保ったままだ。
光秀「あの男の部下というならせっかちなのは納得できます」
喉を鳴らして笑う姿。低く艶のある声……間違いなく光秀だ。
(あの野郎、好き勝手言いやがって…)
むっとする一方で、信長と光秀が生きていたのだと胸がいっぱいになった。
(なんと不思議な夢だ。だが夢でもいい…あの二人が生きていたんだと、今だけでいいから夢を見させてくれ)
何ひとつ変わらない二人の姿だ。
嬉し涙で視界がぼやけそうになるのを瞬きで誤魔化す。
夢だとしても、その姿を見ていたい。秀吉はそう思った。
女「出航して数刻もしないうちに海が時化たようなんです。
無事だと良いのですが…」
信長「気にしても仕方あるまい。日延べしてはどうかといっても聞かなかったのはあいつらだ」
女「そうですが…。秀吉さんの部下だと思うと、他人ごとと思えなくて」
女の顔は秀吉のいる場所からは見えなかったが『秀吉さん』と呼んだ。