第81章 不思議な夢
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旅立ちの前夜。
3人を送り出すささやかな宴が終わり、後片付けをしている時だった。
私が一人になるタイミングを見計らって光秀さんが話しかけてきた。
光秀「舞」
「はい、なにか御用ですか?」
光秀「悪いがこれを結鈴の枕元に置いてくれないか」
差し出されたのは光秀さんがいつも背中に括りつけていた革袋。
竹槍で無惨に切り裂かれていた袋を縫い直したのは私だ。
致命傷を避ける代わりにズタズタになっていた『中身』も綺麗に修正した。
「光秀さん……これを結鈴にって、どうして?」
濡れた手を前掛けで拭き、革袋を受け取った。
少し暗い台所で、白を基調とした着物と白銀の髪が浮き上がって見えた。
光秀「結鈴は俺に懐いている。目を覚ました時、俺が居なければお前や謙信を困らせる程泣くだろう。
だからこれを置いていく。俺の代わりだと伝えてくれ」
明日の出発は早い。
子供達は起こさず、三人は出発する予定だ。
「わるたんを結鈴に渡してもいいんですか?」
光秀「ああ。番(つがい)が現れるのを待ったがこの先も『たった一人の人』は現れそうにない。家臣も同僚も家族も居ない。
ならば可愛いあいつにこれを渡すのが一番だと考えた。渡してくれるか?」
琥珀の瞳が寂しさを滲ませていて、胸がきゅっと締めつけられた。
「わかりました。今夜のうちに結鈴の枕元におきますね」
光秀「頼む」
「光秀さん……」
光秀「なんだ?」
「気をつけてくださいね。ご飯もちゃんと食べて…、お酒ばっかり飲んでないで、早く寝てくださいね?」
本当はもっと言いたい事があるはずなのに、全部喉の奥に詰まって出てこなかった。
途端に光秀さんが吹き出して銀糸が揺れた。
光秀「舞に子ども扱いされるとはな。
本当にお前は……いつまでたっても…」
「なんですか」
光秀「ふっ、最後くらいは言ってもかまわないか?」
「な、なにを?」
艶が増した琥珀の瞳に一瞬たじろいだ。