第81章 不思議な夢
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(姫目線)
「え?」
言われたことを直ぐにのみこめず、目の前に座る主従を交互に見た。
おんぶしている瑞穂が『だーだー、んー』と呑気な声を出している。
あの出産から早くも一年が経とうとしていた。
信長「俺達は海を渡り、南蛮の国へ向かうことにした」
光秀さんは何も言わず信長様の後ろに静かに座している。
「南蛮って……つまりはオランダとかイギリスなどのヨーロッパということですか?」
信長様が大きく頷いて懐から地図を取り出して広げた。
バサッと広げられた地図は佐助君が500年後から持ってきたものだった。
信長「港には年に一度、ろしあという国から大きな船がやってくる。
交渉して乗船し、ろしあからよーろっぱに向かう。
途方もない距離だが何かしら手段はあるはずだ」
「………失礼ですがロシアの冬の厳しさをご存じですか?」
睫毛や鼻毛についたわずかな水分さえ凍りつかせ、大きく息を吸うことさえ危険なマイナスうん十度の世界。
まして鉄道もないこの時代、徒歩や馬では移動できないだろう。
信長「佐助より聞いている。ろしあに着いたら南下して中国を目指す。
その後『しるくろーど』と言われるこの道を通り南蛮へ向かう」
地図上で見れば簡単だけど……危険すぎる。
信長「何か言いたい事があるようだな?」
「はい。些か危険かと………治安も悪いでしょうし、何が起こるかわかりません」
信長様の赤い瞳がすっと細められた。
信長「何が起こるかわからぬから面白いのだろう。この日ノ本でできることはやった。
それならば外を目指し、知らぬ世界を開拓するまでだ」
地図に視線を落とす横顔は冒険を夢見る少年のようにキラキラしている。
止められそうにない雰囲気に、ちらりと光秀さんを見た。