第81章 不思議な夢
気になって仕方がない箇所に近づき、秀吉は唾を飲みこんだ。
―ここに居る男達の中で特に気を引かれるのは『黒髪に赤い目をした御仁』だ。
殿にも負けず劣らずの美丈夫で、立ち居振る舞いや物言いについ引き込まれる。
人を統べていた頃があった御仁と見受けられる。
お傍に寄ると勝手に身体がひれ伏し、低く響く声は威厳と自信に満ち溢れておられた。
あのお方の視線ひとつに有無を言わせぬ力があった。
傍には息を呑むような美青年が控えており、朝日殿ととても仲が良く、私達と男達の間をよく取り持ってくださった。
さりとてこの男も身のこなしは普通ではなく、かなりの手練れと思われる。
―ここにおられる方々は、只者ではない。
殿が天下を平定する前……かつて群雄割拠の時代を駆け抜けた武将達を目の前にしているようだ。
―朝日殿とお子達は男達に大切に守られている。
家族、友、どの表現も当てはまらない不思議な関係だが、愛され、絶えず笑みを浮かべておられる。
その他は食事、怪我の経過、気温、家族を案じている内容が書かれている。
最後のページには、
―明日は船出の予定だ。
小舟しか手に入らず心許ないが、蝦夷の民はこの船で行き来しているそうだ。
これ以上殿を待たせるわけにはいかない。明日は多少天気が悪かろうと出発しよう。
ここに居る方々に、殿の元へ一緒に来てくれるよう申し出たが断られた
黒髪の御仁が『俺達は亡霊のようなものだ』と言っていたが、どういう意味だったのだろう。
あのお方達が殿に仕えて下さったら千、いや、万の軍勢を得たのと変わらなかっただろうに。
日記はそう書かれて終わっていた。