第81章 不思議な夢
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―蝦夷の地が目視できるところまで来ていたが、瞬く間に濃い霧が立ち込めて一寸先も見えなくなった。
座礁を警戒し帆を畳んでいる最中に船の横に波を受け、全員海へ放り出されてしまった
―海岸に泳ぎ着いた者は六人。出航した際は三十人居た乗員をここまで減らしてしまい、殿に申し訳ない
―泳ぎ着いた場所の近くに集落は見当たらず、寒さに震え倒れた。女人に声をかけられ手厚い施しを受ける。
怪我の程度は幸い半月ほどで良くなりそうとのこと。
殿に報告する内容は得られていないが、怪我が治り次第一度引き返すことにする
―ここは集落ではないようだ。
女人が住んでいる家の他、数件家が建っているのみ。そこに屈強な男達が住んでいる。
漁師や農民とは一線を画した立派な出立(いでたち)をしている。
どのお方も蝦夷の訛りがない。育ちは内地なのではないだろうか
―女人は朝日殿といい、気さくな性格で笑顔がとても可愛らしい。
身重の体にも関わらず、甲斐甲斐しく世話をしてくれて、まるで天女のようなお人だ。
殿の名を聞いて少し動揺していたように見えたが気のせいだろうか。
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秀吉「……」
三成が何を気にしたのか疑問に思うほど、ここまではなんてことない内容だった。
秀吉の妹の名もまた『朝日姫』という。
縁あって同じ名の女に家臣が助けられた、そうなのかと思っただけ。
だがその後に続く記載は、秀吉の凪いでいた心を乱した。
名前の記載はなかったが、よく知っている人物達と特徴が酷似していたからだ。