第81章 不思議な夢
(第三者目線)
―本能寺の変より20年後ー
家臣「殿、聞いておられますか?」
物思いにふけっていた男は家臣の声に我に返った。
?「ああ、蝦夷地に向かわせた一団が海で往路も復路も遭難したっていう話か。
蝦夷地との交易を増やそうと思ったが危険すぎるな」
小さく呟いた言葉に家臣が同意するように頷いた。
家臣「はっ。その件について明日、五大老の方々が殿と話したいと申しておりました。
一団は蝦夷地を発つ際、小さな船しか手にはいらず遭難の危険を覚悟に出航したようです。
これは指揮していた者が、日々の出来事を書き留めていたもののようです。
特に重要なことは書かれておらず、家族の手に返そうとしたところ石田様がお読みになり、至急殿に届けるようにと…」
家臣が『汚い』と言っても過言ではない冊子を差し出してきた。
一度濡れたとみられ、紙がうねったままバリバリに乾いている。字は滲んでいたが、辛うじて読み取れる。
男、豊臣秀吉は褥に横たわったままそれを開いた。
もう長いことこうして床に臥せった状態で、秀吉自身、死期が近づいているのを悟っていた。
しばらく紙を捲る音がして、やがてピタリと止んだ。
秀吉「っ!?………これを書いた者は生き残っているか」
内容に強く興をひかれ、秀吉は家臣に問うた。
家臣「いえ、残念ながらこの世にはおりません。
陸奥の海岸に流れ着いた男は豊臣家の家臣と名乗り、この冊子を託すとすぐに息を引き取ったそうです。
数日前、陸奥の商人が預かったものだと、城を訪ねて参りました」
秀吉「商人に礼を伝え、褒美を渡しておけ。それで、これを書いた者の歳はいくつだ」
家臣「23です」
家臣は即答し、『三成様にも同じことを尋ねられました』と訝しげな表情をしている。
秀吉は家臣の疑問に答えることなく日誌を閉じた。
秀吉「23では知らないだろうな」
家臣「?」
ポツリと呟いた言葉に家臣は怪訝な顔をした。