第80章 豊葦原千五百秋水穂国
――――
――
光秀さんは煮沸した刃物でへその緒を切り、赤ちゃんのお世話をしてくれた。
その間に謙信様は出産の報告をして、私を労りながら汗を拭き、新たに布団を敷いたりと忙しい。
光秀「上杉殿、抱いてやれ。無事に生まれて良かったな」
光秀さんが謙信様に赤ちゃんを抱かせた。
真新しい産着を着て、安心したように眠っている。
謙信様に抱かれていると、より赤ちゃんが小さく見えて愛しい。
謙信様は表情を緩め、愛しそうにわが子を見ていた。
謙信「妻と子を助けてくれて感謝する。
俺一人では到底できなかっただろう」
眠っている赤ちゃんを刺激しないよう、謙信様が静かに頭を下げた。
(謙信様が光秀さんに頭を下げてる!?)
光秀さんもびっくりしたみたいだ。
瞬きを繰り返していたけど、ふっと息を吐いた後には、いつもの顔に戻っていた。
光秀「この場において礼など必要ない。
信長様に命じられてここに居るだけだ」
言葉の端々に素っ気なさがあったけど、謙信様はきっと気づいていないだろう。
(ふふ、光秀さん、照れてる…)
布団に横たわったまま様子を見ていると軽い腹痛を感じた。
「あ、光秀さん……」
察したように光秀さんがサッと私の足元に座った。
光秀「大丈夫か」
「はい、さっきの陣痛に比べれば軽いものです」
光秀「少し痛むだろうが触れるぞ」
布の下に手を差し込まれ、足の中心に指が触れた。
出産で傷ついたそこがビリっと痛んだ。
光秀さんの琥珀の目が私を気遣うように見ている。
「っ、大丈夫…です」
はっ、と小さく息を吐く。
冷静になった頭が少しだけ羞恥を呼び起こした。
謙信「どうした?」
謙信様が傍に座った。
腕の中にはしわくちゃで赤い顔をした赤ちゃんが眠っている。
(可愛い)
早く抱っこしたいけど、後産が済んでからだ。