第80章 豊葦原千五百秋水穂国
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光秀「休め」
「は、い」
いきんでもなかなか赤ちゃんはでてこなかった。
陣痛が去ってホッとしたのは束の間、すぐに痛み出した。
「あ、うっ、~~~~~~!」
ビキビキとどこかが痛み、静かに吐いていた呼吸を止めてしまった。
光秀「舞、ふーー、だ。頑張れ」
謙信「舞、息をしろ」
二人に励まされ、止めていた息を少しずつ吐きだす。
でも、はっ、はっと細切れな呼吸しかできない。
一度乱れてしまった呼吸はなかなか戻ってくれない。
光秀「謙信!舞を落ち着かせろ。息をしなければ赤子が死んでしまう」
謙信「舞、聞こえるか、しっかりしろ」
目を瞑って虫の息を繰り返していると謙信様に頬を叩かれた。
(腰……いた、い)
もう直ぐ痛みから解放されるはずなのに、なかなか赤ちゃんは出てきてくれない。
気持ちも呼吸も整わないうちに次の痛みが襲ってきた。
痛みを逃せず布団の上で足がばたついた。
「あぁっ!謙信様っ……い、たい……っ!」
すがるように手を伸ばすと力強く握り返された。
謙信「ここに居る。傍に居るからっ」
手が硬く温かいものに導かれた。
なんだろうと思う間もなくトクントクンと脈打つ鼓動が手の平に伝わってきた。
いつもよりすごく早い鼓動だ。
早くて、すごく大きく脈打っている。
(謙信様、動揺してる…んだ)
目を開けて謙信様を見上げると…いつも通りに見える。
(心臓の音は凄いことになっているのに、見た目が変わらないなんて…)
そのギャップがおかしかった。
痛みでパニックを起こしかけていたのが、嘘のように静まっていった。