第80章 豊葦原千五百秋水穂国
「うっ………」
陣痛の波がやってきて、開いた足を閉じ身体を横向きにする。
謙信「しっかりしろ………っ、変わってやれたらいいのに」
震える声に励まされ、目を開ける。
「ふ、ふふ、男性が同じ経験をすると痛みと出血のショックで死んでしまうらしいですよ。
謙信様に死んで欲しくありませんので、頑張ります」
光秀「冗談を言えるくらいにはまだ余裕か?」
頭にやんわりと手が置かれた。光秀さんの手だ。
「余裕があるように見えますか?あっ…」
また苦悶する私を見て光秀さんの表情が真面目なものに変わった。
光秀「陣痛の間隔が思っていたより短い。直ぐに赤子の位置を診る」
あらためて布の下に手をいれられ、光秀さんの指が太ももを辿るようにして足の間に辿り着いた。
『見るな』と言われたからそうしたんだろうけど、太ももを指で辿られ、なんだか変な感じがした。
光秀さんは気を使って顔を背けてくれているけど、足の間に身を置いて中心を暴こうとしている様子はまるで……
(謙信様が私を愛してくれる時と同じ体勢だ……)
さっきまで感じていなかった羞恥を感じて、握る手に力を込めた。
(光秀さんはお医者さんとして見てくれるんだから意識したら失礼だ)
謙信「舞、こっちを見ていろ」
頬にそっと手が添えられ、優しく謙信様の方を向かされた。
二色の瞳はゆらゆらと嫉妬の光を宿している。
光秀さんを見るなとでも言うように、視界いっぱいに謙信様が顔を寄せてきた。
クチュ
「………ん!!」
思わず、ぎゅっと目を瞑った。
羊水で潤った道を光秀さんの長い指が奥へ奥へと進んでいく。
探るように指を動かされ、身体が震えた。
指を入れたままで光秀さんが言った。
光秀「上杉殿、赤子は直ぐそこまでおりてきています。
舞がいきむ間、しっかり支えるように。身体だけでなく、心も」
謙信「言われなくともそうするつもりだ」
光秀「舞」
「はい」
光秀「よくここまで頑張ったな。もう直ぐだ。
子は俺がとりあげてやるから安心しろ」
「はい」
光秀さんに褒められて、なんだか泣きたくなった。