第80章 豊葦原千五百秋水穂国
(謙信様がこんなに言い淀むなんて珍しいな。どうしたんだろう)
謙信「明智はずっと昔、医学を学び、医者紛(まが)いのことをしていたらしい。
直接出産に立ち会ったことはないが、その知識はあると言っていた。
お前と俺が良ければ出産の手助けをしたいと言ってきた」
「え、光秀さんが?あっ、また………ぅ」
枕に顔を埋め、痛みが過ぎるのを待つ。
頭の中は痛みに支配されていたけど、片隅で思い出していた。
(そう言えば光秀さんはちょっと診察しただけで、私の妊娠に気が付いた)
お医者さんみたいだと言ったら『昔取った杵柄だ』と言っていた。
(そっか、光秀さんは昔お医者様だったんだ…)
納得がいったところで陣痛の波が去った。
でもすぐ次が来る。早く話をしなければ。
「お願いします、もう時間がないんです!
少しでもこの子を安全に産めるなら、光秀さんの手を借りたいですっ」
謙信「だが、俺はっ」
「わかります、私の身体を見られたくない、触られたくないっていう謙信様のお気持ちも。
でも、お願いします。私とこの子にはっ、助けが必要なんです」
不安が涙になって頬を流れた。
謙信「……!」
「二回目ですけど、私も不安なんです。
赤ちゃんはどの辺にいるのか、ちゃんといきめるかなとか……うっ」
内側から押し開かれて、骨盤もお腹も腰も……痛い。
「………ぅ」
謙信「舞っ、息を止めるな!」
お腹を押さえて俯くと謙信様が血相を変えて呼吸の手伝いをしてくれた。
陣痛と陣痛の間が短くなって、休息の時間とは言えなくなった。息を整える間を与えず、次々と陣痛の波がくる。
(痛い、苦しい……一人で、産めない……)
痛みで震える手を謙信様に伸ばす。