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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第80章 豊葦原千五百秋水穂国


――――
――

「はあ、はあ、っ、……」


なるべく早くとお願いしたのに、随分時間がたっている気がする。
謙信様が居なくなってから陣痛の波が幾度も過ぎた。

苦しみながら考えていたことがある。

産婆さんの所に行き、安心して出産に臨もうとしていた私の前に、過去の人達が現れた。
看病をしているうちに臨月に入り、こうして自宅で出産することになった。

自宅で出産しようとして亡くなった人達は多い。
それも家族や、周りの女性達が手伝ってもだ。

謙信様が付き添ってくれているけど、私には手伝ってくれる人は居ない。


(時の神はこの子と私を死に追いやろうとしているの?)


私を追い込むために、あの人たちを遣わせたのだろうか?


(考えても、きっとわからないことだ、よね…)


懐中時計で陣痛の間隔をはかると、もう2分になっている。
万全とは程遠いこの状況でひとりにされ、不安で不安で目が潤んだ。


(せめて手を、握っていて欲しいのに…)


「は、謙信様………、謙信様………っ」


(早く戻ってきて……)


細々とした声で名前を呼んでいると、荒々しい足音が複数聞こえて戸口の前でとまった。


信長「貴様、心細くてお前を呼ぶ声が聞こえぬか!?
 使える手段があるなら使えと言っている!さっさと決断しろっ!」


(な、何!?)


戸の向こうで信長様が凄く怒っている。
痛みを一瞬忘れ、耳をそばだてた。


「謙信様…?」

謙信「わかった、だが舞の意見も聞いてくる。しばし待て」

信長「即断しろ」


ガラリと戸が開き、謙信様が一人で部屋の中に入ってきた。
素早く私の様子を確認して、傍に座った。


「あの、どうされましたか?やっぱり皆さんに断られてしまったのでしょうか」


信長様の剣幕は戸を隔てていてもすさまじかった。
この時代の男の人に、まして武将の皆に頼むなんてやっぱり無理だったのかも…。


謙信「いや、逆だ」

「逆?」

謙信「明智が…」

「光秀さんがどうしたんですか?」


端正な顔をギュッと歪ませた。

葛藤の色を滲ませ、膝の上に乗せた拳を握り締めている。


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