第79章 真田幸村の最期
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それから間もなくして…
身体を休めていた男の傍を幾人かの武士が通りかかった。
武士1「おい!この赤備えの鎧を見ろっ!
貴様、真田幸村かっ!?」
武士2「間違いない、俺は真田の顔を見知っている。
こいつは真田幸村だ!」
鞘から刀を抜く音が聞こえ、男は目を開けた。
立っているのは、いずれも徳川の兵だ。
男は幸村と顔立ちが似ていて、よく間違われることがあった。
幼い頃、一緒に遊んでいると兄弟と間違われたほどに。
(こいつら俺を幸村と勘違いしてんのか)
視線を動かすと、さっき幸村が座っていた場所にボロボロの赤い鎧が脱ぎ捨てられている。
男は自分の鎧が草で見えなくなっているのを確認し『上等だ』と笑みを浮かべた。
男「この首をとって手柄にしろ」
武士1「何っ!?」
男「もとより助からぬ身だ。ならば名もなきお前が武功をたてるのに一役買ってやる。
早々に首をとり、徳川の狸野郎に持って行け」
一騎当千と謳われた将が無抵抗で首をやると言っている。武士達は甘い誘いにゴクリと唾を飲みこんだ。
男の誘いにのり、武士は刀を構えた。
武士1「覚悟っ!!」
男は刀が振り下ろされるその時を待つ。
(幸村、まだ戻って来るなよ。こいつらが立ち去るまで)
ずっと供に戦ってきた幼馴染を思う。
(生きろ。仲間が殺されようが、お前が『死んだ人間』になっても、強く生きろよ)
心優しい幸村には酷だとわかっていながら、男は刀が振り下ろされるのを瞬きもせず見ていた。
胴体から離れた首は地面にごろんと落ち、その頬にポツンと雨が一粒落ちた。